日本では、フリーランサーにとってのヨーロッパの聖地というとオランダやドイツが有名ですね。
ですが実は、チェコもEU諸国の中でも比較的物価が安く、インフラや立地でフリーランサーやノマドワーカーの人気が高いのです。
チェコでフリーランスや個人事業主として働く場合、取得するビザはビジネスビザです。
ビジネスとついているように、企業が目的でのビザとなるため一般的なビザの手続きとは違う部分がいくつもありますし、毎年きちんと確定申告をしなければ更新が難しいのですが、これはどの国でも同じでしょう。
とはいえ、やはりチェコは日本人にとっては比較的マイナーな移住国であり、またはじめからフリーランスでの移住を目指す人も少ないため、日本語での情報はとても少ないです。
そのため今回の記事では、チェコにフリーランスや個人事業主としての移住する人が、手続きを始める前に知っておくべき重要事項をいくつかお伝えします。
ビザの手続きの前にチェコで開業届を出す必要がある
他の渡航目的でのビザ取得との大きな違いは、まずビザの取得手続きより先に、チェコで開業届(Živnostenský list、以下Živno)を出さなければならない、という点です。
Živnoはチェコ国外では申請できないため、一度チェコに来る、もしくはチェコでŽivnoの代理取得をしているエージェントを雇って対応してもらう必要があります。
加えて、Živnoの申請にはチェコ国内でのビジネス住所が必要となるため、できれば実際に住む住所、それが無理でも、ひとまず申請用にバーチャルオフィスの住所を借りなければなりません。
また、Živnoはビザが下りるまでは仮申請のままです。
仮申請のままではお仕事をしてもインボイスの発行ができないため、ビザが下りて本渡航後、なるべく早めに本申請を終わらせるようにしましょう。
そして、実はこれが一番の落とし穴なのですが、Živnoが下りたらすぐに社会保障局と健康保険所に登録をして、当月からの保険料の支払いを開始しなければなりません。
というのも、ビジネスビザの更新条件の一つに「社会保障や健康保険の支払遅延なし」というものがあります。
これが日本であれば数日中に手続きが終わり、すぐにどの口座にいくら振り込むのかがわかりますよね。
ですがここはチェコ。社会保障・健康保険の手続きをŽivno事務所に委任した場合、健康保険は約1か月半、社会保障については数か月待たなければ手続きが完了せず、振込詳細の通知も来ないため、知らない内に支払い遅延が発生してしまいます。
ですのでビザが無事に下りてチェコへの渡航が決まっても、到着から最低2週間はさまざまな手続きで走り回るためにも、仕事や旅行の予定を極力入れないようにしておくことを強くお勧めします。
≫ Živnoに関する基本情報はこちらをご参照ください
チェコ国内での仕事の理由が必須
過去に何度かフリーランスでチェコに移住したいという方からご相談を受けたことがあるのですが、その中で「これはビザが下りるのは難しいかも」と判断せざるを得ないケースがいくつかありました。
それはどういうものかというと、職種を問わず「仕事はオンラインで日本・チェコ国外から請ける」というケースです。
どの国でもそうですが、ビザの給付は、受給者がその国に長期間住む理由があるからこそされるものであって、その理由が弱い場合、承認されない可能性がとても高くなります。
外国から仕事を受けて、さらにその仕事がオンラインで完結するのであれば、チェコには旅行で来ればいいじゃないか、と判断されかねないのです。
とある移住エージェントによると「現地企業からの業務委託の約束を示せる書類が最低1つ、可能であれば2つ以上ないと難しい」とのこと。
もちろん、業務委託でなく完全にゼロからビジネスを築く場合は難しいですが、例えばシステムエンジニアや翻訳者、ヨガインストラクターなどの場合、できれば現地企業やスタジオから「ビザが下り次第、この人に仕事を発注します・この人のヨガクラスを作ります」といった書面を出してもらえるよう依頼するのがいいでしょう。
ハンドメイドなどのクリエイターの場合もこれは重要で、たとえば「チェコビーズ・チェコの伝統的な藍染めを使ったものを作るため」などの理由が必要となります。
チェコへのフリーランス移住を考えている方は、自分の想定している仕事がチェコでなくてはできないとお役所を説得できるものがあるかどうかを、ぜひ一度考えてみてください。
ちなみに、一度ビザが下りてしまえば更新時には実際にしている仕事の内容などの確認はないため(収入の証明や納税証明のみの確認になる)、主な収入源をチェコ国外のクライアントからのものに切り替えても問題はありません。
ただチェコ国外のお仕事の場合、インボイス発行時にチェコ国銀のレートを記入するなど、報酬請求時の手続きがまた少し複雑になるようなので、その点も少しご注意ください。
資産証明の必要額が通常のビザの倍
通常のビザでは滞在中の費用を自分で賄えると証明するための額は、半年の滞在の場合は約42万円とされています。
≫参考:長期ビザについて > 5.十分な生活費があることを証明する書類と、そのチェコ語訳(翻訳認証済みのもの)
ですがビジネスビザの場合、社会保障・健康保険の支払いや税金支払い、またビジネスの必要経費などを踏まえてか、通常のビザの倍である149,000CZK相当額が必要です。
これに2022年12月時点の大使館換算レート(1CZK≒5.64円)を適用すると、約84万円。
初めから1年で申請するのであれば、さらに倍の168万円となります。
現在は強い円安傾向にもありますので、資金証明のために準備する金額は、できれば実際のレートでも換算た上で、より高い方を採用しておくのが安全かもしれません。
申請時点で大使館での面談がある
他のビザと比べて一番の壁が、この面談でしょう。
Živnoやチェコに移住しなければならない理由、また資金証明が準備できた後、実際の申請時に面談が設定されるのです。
ここで注意しなければならないのは次の2つ。
- 面談できる権限のある人が常にいるとは限らない
- 基本的にチェコ語もしくは英語での面談になる
この2つのポイントについて、以下にて詳しく説明します。
面談できる権限のある人が常にいるとは限らない
コロナ以降、在日チェコ大使館の予約がとても取りにくくなったという話を耳にしますが、これはあくまで窓口申請の話。
面談については必ずその権限を持つ人が行わなければならないため、普通のビザ申請よりも予約日が先になってしまう可能性が高いのです。
また、予定の変更も相手の都合優先となるため、こちらが合わせなければなりません。
ちなみにヨーロッパ側で手続きをする場合はベルリンやウイーンにあるチェコ大使館に行くことになるのですが、噂によると面談の予約が2か月や3か月先になるのは普通のことだそうです。
日本の場合、もう少しましかもしれませんが、それぐらいのスパンで計画を立てるようにしましょうてください。
基本的にチェコ語もしくは英語での面談になる
ある意味当然と言えば当然ですが、チェコで仕事をするのであれば現地の言葉であるチェコ語、せめて英語で面談できるだけの語学力がなくてはお話になりません。
もし自分の語学力に自信がないのであれば通訳ができる人を伴うことはできますが、印象がかなり下方修正されることは想像に難くありません。
ビジネスの対象がチェコ在住の日本人のみで、何もかもが日本語だけで完結させられるような内容であれば話は別かもしれませんが……その場合、ビジネス内容や収支についてかなり厳しく追及されそうな気がします。
筆者は実際にこの面談を受けたことはないため面談内容については詳しくありませんが、リサーチしてみたところ、主に次のような内容が聞かれるようです。
- チェコでする予定の仕事の内容、仕事を請け負う企業について、予想している収支など
- 資格、レギュレーションなどが必要な業種の場合、それに関する知識・対応について
- 個人事業主としての知識(各種手続き、社会保障・健康保険のシステム、納税についてなど)
これらはチェコで個人事業主として仕事をする上で知っていて当然の内容ですので、必ず事前に予習しておきましょう。
また、Živnoでは約80種ある業種をいくつでも登録できますが、仮申請時点ではメインとなる1つだけ登録し、面談でもその職についてのみ話すのがベターというアドバイスを、移住サポートエージェントから聞いたことがあります。
というのも、複数の仕事を登録していたり話題に出すと、そちらについても質問が及ぶ可能性が出てくるため、面談の流れがややこしくなりかねないのです。
複数業種に関わりたい場合、または将来の仕事の可能性を限定したくないのであれば、本登録の際にいっそ全業種登録することも問題なくできます。またメインの職種を変更することもできますのでご安心ください。
納税は基本的に実費ベース
すでにリサーチされた方はご存じかもしれませんが、チェコでフリーランスをする利点として「60/40システム」というものがあります。
これは収入の60%を必要経費とみなし、残りの40%を課税対象とするというもので、収入が少ない駆け出しフリーランサーや利益や報酬が安定しない個人事業主にはありがたいものなのですが、実はこれも落とし穴のひとつ。
ビジネス目的のビザや長期滞在許可の更新条件の一つに「一定以上の報酬があることの証明」という項目があるのですが、更新のタイミングが初回納税より後の場合、自動的に納税証明が使用されます。
それ自身は便利なのですが、先述の「60/40システム」を使うと、毎月ウン十万円以上の稼ぎでもない限り納税不要=納税額ゼロとなるため、納税できるだけの収入がないと判断されてビザ更新に繋がらない可能性が高いのです。
ビジネスビザの更新ではありませんが、節税目的でこの「60/40システム」を使って納税額が0CZKだったため、永住許可を申請した際に「十分な収入無し」と判断されて却下されたという人も実際にいたりします。
納税手続きについてですが、そもそも書式がチェコ語ですし会計知識も必要なので、自身が会計士でもない限り、周囲の人に会計士を紹介してもらって対応している人が多いようです。
経費の考え方や必要な領収書の取り方などを知るためにも、チェコに来たら早めに信頼できる会計士の方を見つけるといいでしょう。
30歳以下の人ならワーキングホリデーを活用しよう!
ここまで悲観的な内容ばかりお伝えしてきましたが、実は30歳以下の人限定で朗報があります!
それはワーキングホリデーが活用できるということ。
ワーキングホリデーでチェコに渡航し、Živnoを取得した上で納税までしてから長期滞在許可を申請すれば、上記の問題を大半スルー出来てしまうのです。
ただこれを可能にするには渡航時期が重要です。
チェコの納税手続きは基本的に毎年1月後半または2月初頭から3月末の間に前年分のものを申請することになるため、できれば4月か5月以降にチェコに渡航し、一定期間チェコで収入を得て社会保障や健康保険を支払い、納税に必要な書類が揃った時点で手続き完了→長期滞在許可申請の手続き開始という流れだと効率がいいかもしれません。
その間に様々な季節も経験できるし地元の人とも交流が持てるため、この国が自分にあってるのかどうかもじっくり検討できるでしょう。