12月が近づいてくると、街はクリスマスのデコレーションできらびやかになります。
チェコは無神論者の多さで有名ですが、歴史的にキリスト教とかかわりの深い国であることから、クリスマスは1年で最も重要なイベントとなっており、チェコ特有の伝統や習慣が存在します。
この伝統や風習ですが、日本人が考えるものとはとはちょっと異なっています。
ちなみに チェコ語でクリスマスはVánoce(ヴァーノツェ)、メリークリスマスはVeselé Vánoce(ヴェセレー・ヴァーノツェ)。
今回の記事では、このVánoceにまつわるイベントや風習、迷信などを、カレンダーに合わせて紹介します。
イブの4週間前~ :アドベント(Advent)
アドベントはキリストがの到来を待つ期間のことで、11月30日に一番近い日曜日から12月24日までの約4週間を指します。
最初の日曜日は第一主日と呼ばれ、続く日曜日もそれぞれ第二主日、第三主日、第四主日と呼ばれます。
また西方教会では第一主日を教会歴の新年1日目としており、日付が固定されていない祝祭日の多くが「第一主日から〇日目」と決められているため、宗教行事的に重要な日でもあります。
チェコを含めたキリスト教圏では、この期間にクリスマスの準備をしたり、アドベントにちなんだイベントや伝統を楽しみます。
また、クリスマスマーケットもアドベントに合わせて開催されるので、この時期にヨーロッパを訪れる方は、ぜひクリスマスマーケット巡りを楽しみましょう!
≫チェコのクリスマスマーケット開催情報は、こちらの記事をご確認ください!
クリスマスの焼き菓子(vánoční cukroví)
クリスマスが近づいてくると、チェコの家庭ではクリスマスのお菓子作りが始まります。
ここで作るのはrohlíčekと呼ばれるバニラとクルミの三日月形のビスケットを中心に、ジンジャーブレッド(perník)やジャム・チョコレートでトッピングされたクッキーなど、各種様々な焼き菓子です。
ちなみに、この焼き菓子はクリスマスの日に家族と食べるだけでなく、その前後で親しい人たちにも配って回るため、最終的にはお店でも開くの!?とびっくりするくらい大量に作ります。
中には12月に入ると同時に材料を大量購入し、週末ごとにお菓子を作り続ける家もあるのだとか……
とはいえ、お菓子を焼き続ける主な理由は、自分たちで食べたり周囲にばらまいてしまうために気が付けば大量のストックがなくなってしまうから、というものらしいのです。
実際、自分でクリスマスクッキーを作らなくても、チェコ人の友人や同僚から問答無用で贈られるため、この時期はダイエットを諦めざるを得ないという、嬉しい悲鳴が飛び交う時期でもあります。
アドベントリース
クリスマスマーケットや生花を扱うお店では、壁に飾るためのクリスマスリースや、テーブルなどに飾るアドベントリースが売り出されます。
アドベントリースは、伝統的にはクリスマスリースに紫3本、ピンク1本のろうそくを添えたもので、第一主日は紫のろうそくを1本だけ、第二主日は紫のろうそくを2本と灯す数を増やし、第四主日にはピンクのろうそくとあわせて全部のろうそくを灯すことで、クリスマスまでの日々をカウントダウンします。
他にも1本の大きなキャンドルに24までの数字が刻まれたものもあり、こちらはアドベント期間中毎日火を灯してその日の数字まで溶かしていきます。
最近ではろうそくの色や種類はバラエティが増えているため、店頭に飾られている美しいリースを見ているだけでも楽しくなります。
クリスマスツリー
チェコでもクリスマスツリーを飾る習慣はあり、クリスマスマーケットやオーナメントショップでは、実にきらびやかなクリスマスオーナメントが売られます。
家庭のツリーは日本とは異なり本物のもみの木を使うことが多く、街中では「Vánoční stromek」という看板とともに、もみの木が売られている光景や、買ったもみの木を車や自転車、カート、場合によっては素手で運ぶ人々を見かけることも多くなります。
こうして買ったり、実際に森の中から切り出してきたもみの木は、スタンドに立ててオーナメントを飾ります。
また、それぞれの街や村でも広場に大きなツリーを設置することが多く、ひそかに近隣の町や村と大きさや装飾のきれいさを競っているようです。
チェコのおとぎ話(Česká pohádka)ドラマ・映画
チェコ特有のテレビ・映画のジャンルとして、おとぎ話(Česká pohádka)があります。
一般的に知られている童話も含まれますが、基本的にはチェコに伝わる伝承や昔話をベースにしたものが多く、昔からチェコ人に親しまれています。
クリスマスが近づくと、テレビではこのおとぎ話の実写ドラマや映画が延々と放映されるようになるのです。
Česká pohádkaが好きな人であれば至福の期間ですが、特に興味がない人たち、またすっかり飽きてしまった人たちにとってはなかなかの苦行の日々となるのだとか……
最近はNetflixやAmazon Primeなどがありますが、少し前まではこの期間、レンタルビデオ・DVDが大人気だったそうです。
桜の枝で恋愛占い
チェコのあちらこちらで見かける桜ですが、チェコの独身女性は12月4日に枝を1本切り取って帰り、暖かい部屋の中で水につけて育てるのだそう。
アドベントの間に枝が芽吹いて桜の花が咲けば、次の年には恋人ができる、もしくは結婚できるというサインなのだとか!
ちなみに恋活・婚活中のチェコ女子は、桜の枝に春だと思わせるため、部屋を少し暑いくらいに温めたり、水の代わりにお湯に付けたりと涙ぐましい努力をしているらしいですよ。
おまけ:アドベントカレンダー
最近は日本でもいろいろな種類のものが出てきているアドベントカレンダー。
特にチェコの伝統というわけではないのですが、11月に入るとお菓子メーカーによるアドベントカレンダーがスーパーなどの店頭を彩ります。
好きなメーカーのものがあれば自分へのプレゼントとして購入して、クリスマスまでの日々を楽しく過ごすのもいいですね!
12月5日:聖ミクラーシュの日
チェコにおけるサンタクロースは聖ミクラーシュ(チェコ語:Sv. Mikuláš)です。
日本はサンタクロースというと子供たちにプレゼントを持ってきてくれるお爺さんですが、聖ミクラーシュはちょっと異なります。
聖ミクラーシュは12月5日にお供の天使と小鬼(anděly a čerty)を連れて子供たちのもとにやってきて、1年間いい子ですごしていた子には天使からプレゼントが、悪い子だった場合は小鬼から石炭やジャガイモが与えられるのです。
小鬼と聞くと、東欧に伝わるクランプスを思い浮かべそうですが、チェコの小鬼は黒くていたずら好きな鬼の子という感じなので、全然怖くはありません。
この日は様々な場所で聖ミクラーシュと会えるイベントが開催されますので、お子様がいる方は、ぜひ行ってみてください!
≫ 聖ミクラーシュのイベントは、以下のサイトで確認できます。
12月24日:クリスマスイブ(Štědrý den)
チェコにおけるクリスマスイブは、クリスマスの祝日の中でも一番昔ながらの風習や伝統が盛りだくさんな日です。
家族や親族が一同に集まり、一緒にクリスマスのイベントや食事、プレゼント交換を楽しむ日。
では、実際どんなことをするのでしょうか?
翌年の運勢を占う
アドベントの項目ですでに一つ紹介しましたが、チェコ人はクリスマス当日にもいろいろな方法で新しい年の運勢を占うという風習があります。
もちろん迷信ではあるのですが、なかなかに興味深いものもあります。
リンゴを切って健康を占う
一番お手軽なのが、リンゴでの健康占いです。
リンゴを横に切って、種が五芒星の形であれば、次の年は同席しているみんなが健康に過ごせるというもの。
ただし万が一五芒星じゃない場合、とくに十字架の形になっていた場合は、同席中の誰かが病気になって今うかもしれないので気を付けましょう。
クルミの殻のボートで旅行運を占う
半分に割ったクルミの殻に火をつけた小さなキャンドルを乗せ、水を張ったもの(大きな鍋やボウル、洗面台などでもOK)の端に浮かべます。
そして手を離した時、そのクルミのボートがふちから離れていくようであれば、次の年にはどこかへ旅に出ることになるというもの。
ちなみに複数人で同時に占うのもOKで、その場合は水の上で誰かのボートと出会うことがあれば、翌年はその人と一緒に何かをすることになるという暗示なのだそうです。
結婚運を占う靴とばし
日本では靴とばしは天気を占うものですが、クリスマスのチェコにおいては恋愛占いとなるようです。
風習によると、チェコ女子は家の外で靴とばしをして靴の先が家のドアの方を向いていれば、1年以内に結婚ができる、他の方向を向いていた場合は、次の1年は独身のままでいることになるのだそうです。
断食と金色の豚
チェコにおけるクリスマスイブの伝統で一番重要とされていたのが、朝から夕方までの断食。
朝から何も食べずに我慢すると、夕方には幸運の印である金色の豚(zlaté prasátko)を見ることができるのだとか!
とはいえ、家中あちこちにクリスマスのスイーツや料理が準備されているので、断食を貫くのがとんでもない苦行であることは言うまでもありません。
鯉料理とポテトサラダ
チェコのクリスマスイブの食卓に欠かせないのが鯉料理とポテトサラダ。
鯉は川から釣ってくる場合は、釣った後すぐには締めず、調理する直前まで水を張ったバスタブで飼うことで泥臭さを軽減させます。
調理方法として伝統的なのは煮物ですが、最近ではグリルや丸揚げが主流になっているようです。
ちなみにこの鯉のうろこを1枚お財布に入れておくと、翌年の金運が約束されるそうですよ!
そして鯉料理に副菜として添えられるのがポテトサラダ。
材料や調理方法に特別なところはないのですが、ピクルスが入っているせいか、日本のものより酸味が強めな気がします。
他にも麦ときのこのスープやリンゴのシュトルーデル(jablečný závin/štrúdl)、またvánočkaと呼ばれるクリスマスの甘いパンを食べるようです。
ツリーの下のクリスマスプレゼント
ディナーが終わると、テーブルに着いたみんなでクリスマスキャロルを歌い、それからようやくクリスマスツリーのもとに向かいます。
目的はもちろん、クリスマスプレゼント!
キレイに飾られ、あかりを灯されたクリスマスツリーの下には、夕食の間にクリスマスプレゼントが置かれているのです。
ちなみにチェコでは、煙突からきたサンタクロースではなく、窓から入ってきた幼子イエス(Ježíšek)がプレゼントを置いていくのだと信じられています。
サンタクロースと違って幼子イエスにはっきりとした姿かたちはなく、またどこに住んでいるのかも伝えられていません。
とはいえ、クリスマス前にはサンタクロースのように、 幼子イエスのもとにも子供たちからのクリスマスプレゼント候補リストが届くようです。
深夜のミサ(půlnoční mše)に参加する
チェコ人の実に8割が無宗教なのですが、クリスマスイブだけは深夜のミサに参加し、ヤクブ・ヤン・リバ(Jakub Jan Ryba)が作曲したクリスマスミサを聴くのだそうです。
深夜と言われるように、基本的には0時開始ですが、教会によっては22時など少し早めに始めるところもあるようです。
また子供向けのに午後にも執り行う教会もありますので、ご近所の教会でクリスマスのプログラムを確認してみてくださいね。
12月25日(Vánoce)&26日(Den Sv. Štěpán)
チェコのクリスマスは26日まで続きますが、25日と26日は特にイベントごとはなく、家族やパートナー、親しい友人たちとゆっくり過ごす日となっていますが、かつては子供たちが集まって家々を巡ってはドアの前でクリスマスキャロルを歌っていたようです。
特にこの休暇は、誰もが同じタイミングで取得できるため、日本のお正月のように遠方から地元に帰る人も多く、旧交を深めるのにも最適なのだとか。
おわりに
一口にヨーロッパのクリスマスと言っても、国や地域によっては伝統や風習が異なるものです。
隣の国でもやはり民族や文化の違いで考え方や祝い方が異なるため、各国の風習の違いで盛り上がることもあるのだとか。
それでも、クリスマスは大切な人たちと過ごすための日である、という認識は共通しているのが興味深いです。
ちなみに一般の企業やお店では、クリスマスの祝日は24日~26日までの3日間のみ。そのため、27日から31日までは通常営業であることが多く、有給休暇を利用して年末年始までの長い休みを確保する人もいるようです。
また、クリスマスの注意点として、24日の正午から26日いっぱいまでが国定の祝祭日のため、ほとんどのお店が閉まってしまうということ。
観光客の多い地域であれば特例で開いているレストランやお店もありますが、スーパーを含めてほとんどのお店が閉店となるため、事前のお買い物は忘れずに!